仙台市若林区 荒町商店街界隈
伊達政宗は築城とともに町づくりを行い、それまでの居城があった岩出山から連れてきた町民を住まわせたのが御譜代町。今もその記憶を留めるのが荒町商店街である。商店街にある佐藤麹味噌醤油店は、まさにその歴史を物語る店で、「仙台開府が1601年で、うちは1603年創業です」と話すのは14代目の佐藤光政さん。荒町は麹屋の町として町割りされたが、同店も米沢から付いてきた麹屋だそうだ。「江戸時代は酒、つまりどぶろくも味噌も自分の家で造っていたらしいから、麹は生活必需品だったんですね」。創業420年の老舗には、全国からお客さんが訪れるという。また地域の小学生の見学を受け入れたり、児童館主催の味噌造り教室で教えたりもしているそうだ。
通り沿いの建物は、道路拡張工事で全て取り壊されて新しくなったが、間口は藩政時代のままだ。今では仙台でも数少なくなった歴史ある商店街をぶらり歩けば、創業100年を超える店があちらこちらに見られる。その一つが明治40年創業の嘉藤金物店。ルーツは秋田・佐竹藩の御用商人で、2度の大火の後に仙台にきて行商から始めて店を開き、戦時中に強制疎開で現在地に移ってきたとのこと。113年の老舗とあって、店内には懐かしいデザインの鍋や雑貨などが並んでいて何とも楽しい。ここは荒町一番地で、ここから西が荒町商店街、東は南鍛冶町商店街だったそうだ。「隣が八百屋、その隣が魚屋、向かいは食料品店でしたが、閉店して10年以上経つかな」といった話を、わざわざお茶を出して話してくださった。昭和の商店でよく見られた、「買い物がてら世間話をする」という光景がよみがえる。
もう一軒、飛び込みで入ったパン屋「広進堂」も同様だった。ここには食パンや菓子パンの他に、みそパンや堅パンといったおいしいパンが並び、懐かしい思い出にひたりれる。創業は明治20年、大町で砂糖屋として始まったそうだ。「みそパンや堅パンは駄パンといって、明治時代のレシピのまま作っています」と話すのは6代目の岡直樹さん。「レシピは昔、配合といったのね」と隣でお母さんも教えてくれる。レジの奥では84歳という5代目のお父さんがパン作りに余念がない。「最近では、堅パンにはまったという若者が買いにきたり、新しいパンの名前をつけてくれたりするんだよ」と岡さん。つづいて立ち寄った、171年の伝統の造り酒屋・森民修造本家もそうだが、どこへ行っても会話が生まれてあたたかみや人情が感じられる。これこそが商店街や街並みの、最も大切にしたい記憶ではないだろうか。