鎌倉温泉
鎌倉温泉には、1062年の前九年の役で鎌倉五郎景政という武将が夢のお告げで温泉を発見したという伝説があり、その故事に因んでこの地を鎌倉沢と呼ぶようになったという。東北道の村田ICから車で10分ほどの距離だが、蔵王山麓に向かう森の道は深山の趣になり、行き止まりの谷間に赤い屋根の鎌倉温泉が現れる。
木造の建物は昔ながらの湯治宿の雰囲気を保っていて、畳敷きの各部屋は襖で仕切られ、縁側から障子を開けて入るという造りだ。炭火を入れた長火鉢が置かれ、冬は炬燵も加わる。昔、泊まり客が縁先で七輪を使い、自炊していた時代もあったとか。年配の人にとっては郷愁を誘う風情ではなかろうか。時折、山からリス、カモシカ、キツネなどの動物が姿を見せるとのこと。
もし出会えたら幸運な旅になりそうだ。浴室は、シンプルな造りの心地よさで、アルカリ性の令鉱泉を加温した透明な湯は皮膚に優しい温かさだ。湯上りは,玄関脇の休憩室で窓から沢の流れや山の景色を眺めてみたり、部屋に戻ってごろごろしたり、ゆっくりと過ごしたいもの。食事は山と里の幸がたっぷり。元は農家で、現在も米や野菜、果物などを栽培しているため、自家産の旬の食材を使った家庭料理は生き生きとした美味しさだ。長逗留には飽きの来ない味がいい。山の中の一軒宿、鎌倉温泉は蔵王山麓の自然、野生を感じる隠れ里といえる。