蔵王料理 のうらく伸
「人に飽きられない」ことはとても難しい。多様性を求められる時代にあって、個性が際立っていれば大丈夫かというと、そう単純ではないから悩ましい。これはうらゆる分野につきまとう話だが、蔵王酒造が醸す酒は、こと日本酒の世界においてそれが実現不可能ではないことを証明してくれる。「盃を重ねるごとにおいしくなるお酒を造りたい。それが蔵人たちの一致した思いです」と常務取締役の渡邊毅一郎さん。2017年春に家業である蔵王酒造に戻ってくるまでは、埼玉県で保育士をしていた異色の経歴の持ち主だ。
幼いころから身近に酒造りの世界があったとはいえ、一からのスタート。年齢の近い新進気鋭の大滝真也杜氏や金子純平副社長に、あれこれ質問しながら学んだ。そんな渡邊さんたち蔵王酒造の蔵人の思いを受け止め、郷土が育んだ食材を生かした料理との最高のマッチングを提案しているのが、隣町の蔵王町にある「蔵王料理 のうらく伸」の店主・作間秀伸さんだ。「蔵王酒造のお酒は香りが穏やかで、野菜、チーズなど難にでも合わせやすい。
実際一杯目に蔵王酒造のお酒をのみ、その後他の蔵のお酒を飲んでも最後はやはり蔵王酒造に戻る、そんな飲み方をするお客さんは多いですよ」。店のすぐ目の前にある畑から収穫したばかりの野菜の旨みを存分に引き出した料理が、作間さんの言葉に説得力を与える。蔵王の山々がもたらす伏流水と地元の農家が精魂込めて育てた米。それを原料に、日本酒へのいちずな思いを抱いた蔵人たちが、この土地でしか造れない酒へと昇華させていく。今日もまた、古き良き酒造の雰囲気をたたえた建物の中で、理想の日本酒への探求は続く。