臥龍山 福應寺
仙台市街から車で約40分。阿武隈川の滔々とした流れの先に広がる連山の風景を目にしながら槻木橋を渡ると、ほどなく山懐にたつ福應寺に着く。1492年開山と伝わり、地元で親しまれる角田音頭でも高蔵寺と並び称される寺である。境内の古木に圧倒されるが、中でも樹齢800年から1000年といわれる「千年榧」の名で親しまれる木の樹高は34m。苔むす幹は筋肉のように盛り上がり、生命をみなぎらせている。石段を上った先の、境内の一番高いところにあるのが毘沙門堂で、ここには鎌倉時代に造られた毘沙門天三尊像が安置されている。三尊とは毘沙門天と吉祥天、善尼師童子のこと。
「このように奥様、子どもがいる毘沙門天さまは全国的に珍しいそうですよ」とお話ししてくださったのは、副住職。運慶作とも伝わる三尊は、残念ながら秘仏。御開帳は新住職の就任後初めての寅年に行われるそうだ。「昔からそれ以外の時に開けると災いがあるとされてきたのですが、いっとき12年に一度開帳したことがあるそうです。ところがその年は水害で穀物が取れなくなり、元に戻した、と聞いております」。お堂の前には浄願堂があり、尋ねると、ここは願い事を書いた絵馬を投げ入れるお堂とのこと。この地域で盛んだった養蚕繁栄を祈願し、養蚕がうまくいったら2枚にして返す習わしが繰り返され、古くは1768年まで、総数は2万3477枚に。
このような種類の絵馬奉納風習は全国的にも例がないことから、6年前に国の重要有形民俗文化財に指定された。県内では初の指定である。境内脇では絵馬の展示・保存のための収蔵庫が建築中で、ことし年の春には一般公開の予定。楽しみなことである。庫裡の前の梅の木も、なんと樹齢千年。福應寺が建つ山は臥竜山で、その口にあたるところからは臥竜名水が今もこんこんと湧き出ている。恵み豊かなお寺は、土地の人たちからは「鳩原の毘沙門さん」と呼び親しまれ、1月の初寅祭りには寅の刻から始まる読経に多くの人々が集まる。