往復びんた
先週、「おにぎりを握るのがいかに大変か!」について、オヤジの認識が甘かったことについてお話ししましたが、その翌日、ちょうどお母ちゃんがいつものようにおにぎりを握っていた時、オヤジは恐るおそるお母ちゃんに向かって、「おにぎりを握るのって大変なのか?」と聞いていました。するとお母ちゃんは、しばらく間をおいてから、「まぁ そうでもない。何とか続けられます」と答えた。会話はたったそれだけでしたが、オヤジにしてみれば、答えるのにしばらく「間」があったことと、単に「そうでもない」ではなく「まぁ そうでもない。」という言い方が気になったようです。つまり、いつもならストレートに、「大変ですよ」と言われれば、吹っ切れたのでしょうが、それでは少し可哀そうだと思ったのか、しかし、そうでもないといってしまえば、そのまま受け取られてしまい、「そうか、おにぎりは簡単なんだ」と思い込まれても困る。そこで...
かなりもやもやしたものが残ったようですが、お互いにそれ以上踏み込んだ話はしませんでした。それから数日が過ぎたある日、例によっておにぎりを握っていたお母ちゃんが、おにぎりって大変なのよね! 「中に入れる具材、そしてその塩加減、ご飯を包む海苔、ふっくらとした握り方、分量など、かなり気を使う」と、先日のテレビに出演していた女性群とまったく同じ愚痴をこぼしているではありませんか。つまり、オヤジの悪い予感が的中したわけです。「それならそうとなぜあのとき言わなかったの?」とは言わず、その言葉を飲み込んだようです。しかし、さらにお母ちゃんは、電子レンジの時間の延長の仕方、洗濯機の細かい設定の仕方、その他もろもろについて、まるで機関銃のように連続して説明を始めたのです。つまりこれは、「大変なのはおにぎりを握ることだけではないんだよ!」ということをオヤジに思い知らせる狙いがあったようです。
オヤジは、ほんの少し感謝の気持ちを伝えようと思って発した言葉が、とんでもないビックなお土産をもらう結果になり、藪をつついて蛇を出すというか、仏心が仇になるというか、雉も鳴かずば撃たれまいぞに、というか、思いっきり往復びんたを喰らった気分のようです。お母ちゃんは、「私がいないとき、お父さんがやらなければならないので」という大義名分をかざして、すずしげに教えていますが、明らかに普段鈍感なオヤジに対する報復に違いありません。泣きながら、衰え始めた記憶力に鞭打って、一生懸命家事の手順を脳みそに刷り込んでいるオヤジの姿は滑稽というより哀れに見えました。そこでボクはお母ちゃんにその真意を聞いてみました。するとお母ちゃんは、「それはお父さんに対する報復などではなどではありません」と、きっぱり言いました。ボクとしたことがあまりにも愚問だったことを恥じ入るばかりです。本当はオヤジもお母ちゃんの真意をよく知っているはずですから!