塩竈神社の「鹽竈桜」
塩竈神社境内には、天然杵物に指定されている「鹽竈桜」をばしめ、染井吉野、枝垂桜、河津桜、八重桜、萌黄色の花を咲かせる御衣黄などがあります。「鹽竈桜」は、八重桜の一種で、うすい紅色。一つの花に30から50もの花弁がつき、先端の2ないし3の緑色の小さな葉に変化します。例年は5月初旬が満開になりますが、昨年は4月下旬に満開になりました。平安時代から既に鹽竈桜として知られ、千年前、堀河天皇が「あけくれに さぞな愛で見む鹽竈の 桜の本に海人のかくれや」と詠んだ。
かつて、鹽竈桜は昭和15年に国の天然記念物に指定されましたが、昭和32年ごろに一度枯損しましたが、その後保存会の方が接木し育ててきた甲斐あって、昭和62年に再び天然記念物に返り咲きしました。境内に50ほど植栽されたということです。一森山という山一帯が塩竈神社の聖域であり、杉の大木の下、202段の石段を登っていくと、300年の歴史を刻む朱の桜門(随身門)と染井吉野と枝垂桜が迎えてくれます。この門をくぐると、古の都人が「塩竈の浦」で知られる歌枕の地であったことが偲ばれます。
鹽竈神社縁起によると、塩竈の名は、その昔、塩土老翁神(しおつちおじのかみ)がこの地に来て、塩を作る方法を人々に教えたことによる、と伝えられています。「見わたせば 霞のうちもかすみけり 煙たなびく塩竈の浦」(新古今和歌集にある藤原家隆が詠んだ和歌)でも、藻塩を焼く煙がたなびく塩竈の浜の景色が歌われています。地元の人々からお山と親しまれている鹽竈神社は、かつて国府多賀城に赴任した都人が最初に参拝した神社だったそうですので、9世紀にはすでに篤い信仰の対象となっていたことが窺われます。