春の陽気に誘われて
桜の花が咲き始めようとしているこの頃になると、あの恐ろしい杉花粉の飛散もいよいよ終盤に入ります。わが家ではこの時期にちょっと遠出をするのが慣わしです。ボクはどちらかというと、花より団子の方で花見は近所のサクラで十分なのですが、お母ちゃんの運転で、のんびりとサクラの名所を訪れるのは別の意味でとても好きです。それは、車という小さな部屋のなかに家族が固まっていられるからです。そして、みんなの息遣いを感じながらうたた寝をするのは最高です。そんなわけで、車窓からサクラを眺めた経験はあまりないのですが、一度だけ見事な光景を目にしたことがあります。
それは、どこだったかはよく覚えていないのですが、とにかく、サクラと菜の花が同時に咲いているところでした。普通はサクラに見送られながらツツジが咲くというのが見慣れた景色なのですが、そこでは、サクラが見送っているというよりも、二つの花が競演しているように見えたのです。さくらはまだまだ春だと主張し、主役の座を下りようとしない。一方の菜の花も、もう夏だといいはり予定通りの出番だと鮮やかな黄色でアピールする。しかし、これは決して出番を間違えたのではなく、守備範囲を守ろうとして生じた大自然の気遣いの表れだったのではないでしょうか。
自然界は、これらの花たちのように、散ってから咲くのではなく、後の花が咲いたのを確かめてから散るという節理を忠実に守り続けています。人間の世界もかくありたいものですね。競争相手を滅ぼすことに全精力を傾けてしまうため、首尾よく勝利を収めたとしても、新しい体制を作り変えるのにかなり時間がかかってしまう。一般市民の立場からすると、「角を矯めて牛を殺す」結果にならなければと心配することもあります。目指すべき姿を掲げ、それを達成するための戦略を打ち出し競い合う。こうした戦いぶりが最終的に市民の支持を勝ち取ることにつながるのは、事業でも政治でも同じではないでしょうか。