鯖の化石の缶詰
突然変なタイトルで驚いたことでしょう。第一、「鯖の化石」などというものがこの世に存在するとは誰も想像しないでしょう。ましてや、それを缶詰にしたものなど存在するはずがありません。これはオヤジの冗談というか、一種の皮肉のようなもので、お母ちゃんに向けられた、いつものジョーク(少なくともオヤジ本人はそう思っているに違いありません)です。そう言われても皆さんは、何のことか見当もつかない唐突な話だと思いますので、この「鯖の化石の缶詰」なる言葉をオヤジが発したいきさつを説明させていただきます。店が定休日の先日、珍しくお母ちゃんがキッチンに蓄積された食品や段ボール箱などを整理していました。その時、見つけたのが鯖の缶詰だったのです。よせばいいのに、お母ちゃんは、オヤジに向かって、ねぇお父さん見て! と、サバの缶詰を目の前に突き出し、この缶詰の消費期限は何時かわかる! と笑いながら言ったのです。苦笑いを通り越した変な笑顔にオヤジが返した言葉が「鯖の化石の缶詰?」という訳です。悪びれることなく、わざわざ差し出すお母ちゃんのおおらかさはさすがだと思いました。
そこでオヤジがとっさにとったリアクションが、これなのです。ボクが思うには、お母ちゃんが機嫌よく断捨離に取り組んでいるので、嫌みたらしいことを言うのも気が引けたので、超激辛でフェイントの効いた言葉を吐いたのではないかと推察しました。それにしても「化石」というのはちょっとやり過ぎですよね。さすがのお母ちゃんも、オヤジの言っている意味が分からず、もしかして、オヤジが勘違あるいは聞き違いして、トンチンカンな返答をしたのではないかと思い、もう一度聞き返していた。するとオヤジは、自分は耳が聞こえなくなったわけでもないことを証明したいと思ったのか、一層大きな声で「鯖の化石の缶詰?」」ともう一度言ったのです。すると、ようやくお母ちゃんは、このメガトン級で超スパイスの効いたジョークを受け入れ、自分を納得させているようでした。お母ちゃんの名誉のために言っておきますが、これはお母ちゃんの感性が鈍いのではなく、オヤジの発するギャグがいつもながら軌道を外れているせいで、にわかに頭の回線がつながらないのは当然です。それでも、笑ってくれる貴重な存在です。
ところで、断捨離についてはどこの家庭でも頭の痛い問題ではないでしょうか? 考えて見れば、限られた一つの箱の中に入れた分だけ出してから、新たに購入したものを入れれば、いつも現状維持なので、家の中が込み合うことはないはずですよね。それがそうはいかないところに原因があるだけのことで、断捨離の技術自体に問題があるわけではありません。これは高等数学の問題ではなく、足し算引き算の問題ですから、限度を超えて収納場所を求めるのは、家が狭いからではなく、10を買ってきて、7しか消費しないうちに、また10を買い足すという単純な計算(0+10-7+10=13)ですから、最小限のストック量を割り込みそうな時点になったら、予想消費量を買い足せばよいわけです。しかし、そう偉そうに言うのは簡単ですが、実際にそんな合理的な生活を続けていては息が詰まりますよね。少なくともわが家の住民たちの肌には合いません。こうして考えて見ると、断捨離の考え方には、これといった決まりはないので、思った時が断捨離時ぐらいにアバウトに構えていてもいいのではないでしょうか。鯖の化石の缶詰はこうした文化の下で生まれたのです。