浦戸諸島の魅力
松島湾に浮かぶ桂島、野々島、寒風沢島、朴島の4つの風光明媚な有人離島から成るうら戸諸島。人口計300人、自然と歴史と懐かしい生活が息づく離島で、潮風を受けながらのんびりと「島時間」に浸るのもいい。島の足は、塩釜港のターミナル「マリンゲート塩釜」発着の市営汽船。定期便で20ないし50分かけ4島を巡る。一番近いのが桂島で、ノリ・カキ漁の拠点。波止場前には震災後の現代版「浦戸番屋」があり、その調理室で島の女性たちの合同会社」が頑張る浦戸の母ちゃん会」が名物のノリ、カキの佃煮や味付けノリなどの加工品を製造している。低い峠を越すと太平洋が一望、松島遊覧船観光の目玉の「仁王島」が眼前にたたずみ、歴史ある海水浴場も復活。島を貫く丘の上の遊歩道は、海に臨み、花にあふれ、適度な起伏もあってトレッキングに最適。
東端は古くからの集落「石浜」に至り、明治期に北洋のラッコ漁で名をはせた白石廣造の屋敷や作業場の跡もある。市の出先の通称「ブローセンター」や小中一貫の島の学校「浦戸小中学校」がある野々島を経ると、その先に寒風沢島がある。寒風沢は江戸時代、仙台藩の海の最前線基地として、米をはじめ江戸との物流の中継点として栄えた歴史がある。島を歩くと、港を見下ろす日和山に精確な「十二支方角石」や遊女伝説の「しばり地蔵」、海辺の砲台跡や軍艦建造碑などの歴史にひょっこり出会う。また、島には塩竃市内で唯一の水田が残り、今も2件の農家が天水利用・天日干しの昔ながらの農法で米作りを続けている。その米を使い浦霞醸造元「佐浦」が毎年、地域・本数限定で発売するのが純米吟醸酒「寒風沢」。さわやかな香りとうまみが自慢の震災復興酒、通を唸らす隠れ銘酒になっている。
浦戸は震災で大きな打撃を受けて人口流出と高齢化が進むが、魚業や農業の若い担い手も育っている。桂島の合同会社に勤めるノリ生産者の荒井啓太さんは、4年前に東京から転職してきた市の「地域おこし協力隊」の第一号。島の先輩漁師の直接指導でノリ養殖を学んで自立、「海の作業はきついけど、季節によるメリハリがあって性格に合っていると思う。島にも島の人にも助けられているので、いいノリを作ることで地域に役立ちたい」と話す。寒風沢島の加藤信助さんは震災を機に仙台の会社を辞め、祖父の代まで住んだルーツの島での定住を決意し、農業に取り組んでいる。輸送のハンディなどから、保存性の高いタマネギ、ニンニク、トウガラシ、ジャガイモなどを「島育ち野菜」として出荷、米作りも手伝う。加藤さんは「食べ物という人間の基本にかかわる仕事は楽しく、日々の発見があります。交流人口が増えて島が元気になるよう、島の歴史や文化を伝える役割も担っていきたいですね」と夢を語る。彼らに心からエールを送りたい。