ソーシャル・ディスタンス
ソーシャル・ディスタンスなどと急に言われても、日常の生活の場面でどう対処したらよいか迷いますよね! でも、なんとなく感覚的にはそうした常識が身に付いているような気もします。例えば、空いている電車に乗るとき、一つのシートに誰も座っていない場合、大抵の人は、シートの端に座ります。両側の席がふさがっている場合は真ん中に座ります。しかし、車内が込み合ってくると、空いているところにすわることを躊躇しないでしょう。多くの人がこうした行動をとるというのは、やはり、社会的な距離の取り方を心得ているからではないでしょうか。でも法律に定められているわけでないので、これに従わないからと言って拒絶することもできません。新型コロナウイルスのせいで、毎日のように使われるようになったソーシャル・ディスタンスという言葉は、以前からあったようです。人間同士が関わり合いを持つとき、物理的な距離の他に、心理的、感覚的な距離の置き方について、アメリカの文化人類学者であるエドワード・ホールによって研究されている。その中では、人間関係の距離を次の4つに分類しています。
① 密接距離(intimate distance、 0㎝~45㎝): ごく親しい人だけに許される距離で、相手の身体に容易に触れられる距離であり、体温、呼吸音、匂い、感じなど総てが結合し、感覚入力が極めて高い関係であるため、知らない相手が密接距離に入ってくると恐怖感・不快感を強く感じる。
② 個体距離(personal distance、45㎝~120㎝): 親しい友人・恋人・家族などと普通に会話するときに取る距離で、相手の表情が読み取れれる距離である。自分と他人との関係を保てる防御領域。即ち、意識的になれば接触可能な距離。
③ 社会的距離(social distance、120㎝~350㎝): 会話ができて、社会的な付き合いが可能な、やや形式ばった場合に採られる距離。つまり、知らない相手や公的な改まった場面で相手と話す距離で、相手に手が届かない安心できる距離。
④ 公共距離(public distance、350㎝~20m): 細かいニュアンスや顔の表情や小さな動作が感じられない距離。講演会のような、自分と相手との関係が「個人的な関係」ではなく「公的な関係」であるときの距離。
上の4つの距離の中の③がいわゆる「ソーシャル・ディスタンス」です。新型コロナウイルス感染防止対策として推奨されているのは、約2mということですが、簡単なようでなかなか難しいというのは体験済みでしょう。しかし、もっと難しいのはどうしてもこのソーシャル・ディスタンスがとれなときにどう対処するかです。例えば、満員電車の中でこの距離を保とうとするのは不可能ですから、個体的距離はもちろん密着距離さえも取れなくなるでしょう。そうした時の対人距離の取り方をどう工夫すべきか、という点については、マスクを着用する、咳をしない、電車を降りた後や帰宅後は手を洗う、うがいを丁寧に行う、といったごく当たり前のことしかできません。これではまるで「気合」でコロナと戦っているようなものです。でも、第一次世界大戦の最中、1918年に大流行したスペイン風邪で3拾数万人が亡くなったということですが、その時の対処方法を記述した綴りが最近発見され、その中身を見ると、驚くなかれ、今回の対策とほとんど変わらないということです。先人知恵に感謝すべきか、進歩のない現代人として反省すべきか?