オヤジとお母ちゃんのホットでコールドなバトル
いつものこととはいえ、オヤジとお母ちゃんの言葉のバトルには恐れ入る。オヤジは、自分が知っていることを、こと細かに教えられたり、説明されるのが大嫌いの性格で、これは一生治らないでしょう。本人も直そうと思っているふしはまったくない。今日もきょうとて、お母ちゃんが、お父さん!「魚はこうやって崩すと食べやすいですよ!」といった。魚の町で生まれ育ったオヤジには、そんなことはあんたに教えられたくないというところでしょう。しかし、そうストレートに言い返すのも飽きたのか、今日のオヤジは、「お母さんって、何でも教えてくれるから大好き!」と皮肉った。するとお母ちゃんもさるもの、「お父さんって、嘘つきだから大好き!」と返した。場合によっては、少し厄介なバトルに発展すること予想されるので、ボクもちょっと身構えていたが、二人とも噴き出したので、みんなで大笑いすることになりました。それにつけても「教えられるのが大嫌いのオヤジ」と「知らないと思うから教えてあげる」という二人が、どうしてこんなに長い間一つ屋根の下で暮らしてきたかの一瞬不思議に思った。
そのことについて、あとでオヤジに聞いてみたら、しばらく沈黙した後で、「いつも二人で自分が正しいと主張しあっていたら、ほぼすべてのことで意見が対立し、息が詰まってしまう。それは、特別相性が悪いということではなく、人間は押しなべてそういうものだ。そんな人たちが我儘放題で家庭をカスタマイズしようとすれば、三日ともつはずがない。それをわきまえていれば、だいたいのことは許せるものだ」。つまり、野球に例えれば、「ストライク・ゾーンをできるだけ広げるということだ。そうすれば、かなりの暴投を投げても、キャッチできる。世間では、それをルール違反あるいは、「ずるい」という人もいるかもしれないが、そのずるさが接着剤になり、協力し合えるようになるというわけだ。今日のバトルもお互いに向きにならず、お互いに受け止めることができたので、「笑い」に替えることができたのだ。最も、虫の居所が悪い時には、一方がボールの判定を下すと、あっという間に、千本ノックがはじまり、収束を見るまでには2日ないし3日ぐらい要することもあるという惨事になることもある。
芥川龍之介の言葉を先日ご紹介しましたが、別の言葉に「私は不幸にも知っている。時には嘘による外は語られぬ真実もあることを」というのがあります。お母ちゃんはこの言葉を知っていたかどうかは分かりませんが、オヤジに聞いたところでは、昔は、お母ちゃんは嘘をつくのが大嫌いだったそうで、人付き合いの難しさを嘆いていたこともあったという。そのお母ちゃんが、例え冗談にしろ、「お父さんって、嘘つきだから大好き!」と、とっさに返す言葉を思いついたのは、まったくこの「名言」と無関係ではないような気がします。つまり、「嘘つきは泥棒の始まり」みたいな思い込みが、嘘で表現した方が丸く収まると判断したのは、まさしく学習効果の賜物で、にっこり笑ってヒトを切ったような感覚なのかもしれませんね。そんなわけで、今年も無事に終わろうとしていますが、ウエストが太くなった程度に比べれば、微々たるものですが、オヤジもお母ちゃんも少しは太っ腹になったようで、来年はもっと面白くなりそうです。といっても、もっと嘘をつくのがうまくなるように訓練しようと思っているわけではありませんのでご安心ください。