松島町、もう一つの桜
松島といえば、西行戻しの松公園など桜の見どころも多いが、この場所をご存知の方は意外に少ないかもしれない。そんな隠れた名所が、高城川の桜並木だ。国道346号線沿い、明治潜穴の遺構が残る明治潜穴公園のあたりから、高城川をはさんだ対岸に桜が見えはじまる。2㎞ほど続く並木は、車で走ると約3分。駐車場に車を止めて桜並木をのんびり歩くのもまた気分がよい。個性豊かな桜の木の一本一本を見上げ、樹に触れ、春の息吹を味わう桜散歩が楽しめる。
この高城川と潜穴には、幾多の先人達が品井沼干拓にかけた情熱と、水害との戦いの歴史を垣間見ることができる。品井沼は、吉田川の下流にある遊水池で、ここから川となって鳴瀬川に合流していたが、古くから増水時には周辺地域に多大な被害をもたらしていた。そのため、仙台藩は品井沼干拓事業の一環として、1693年(元禄6年)から5年の歳月をかけて穴川を掘り、逆流防止の門を設けた。元禄も潜穴は、品井沼から平堀を掘り、松島丘陵に2.6㎞に及ぶ潜穴(トンネル)を掘って、現高城川を通して松島の海に放出するという人工川であった。
それも、幕末には傷みがひどく機能しなくなったため、明治に入って新たに明治潜穴を掘り、併せて干拓を進めたことで、1940年(昭和15年)以降、山形などからの多くの入植者によって稲作が始まっている。今も、潜穴を作る際、土砂を運び出すために掘られたずり出し穴などが残っており、いかに困難な工事だったかがうかがい知ることができる。また、公園では、京都の桜守・第十六代佐野藤右衛門氏より寄贈された祇園しだれ桜も可憐な姿で迎えてくれる。