明日はボクの13回忌
人間社会の慣習に従って言うと、明日はボクの13回忌ということになります。思い起こせば、13年前の4月13日、午前3時10分にこの世の最後を迎えました。でも、オヤジの布団の中で、腕枕をしたまま明るくなるまでゆったりと過ごしました。その後お母ちゃんは、ボクを愛用の敷布団に寝かせ、花模様の毛布を掛けてくれました。オヤジはボクの傍に座り込み、何時間も動こうとはしませんでした。やがて兄弟(3人の息子)と孫たちも次々にやってきました。その日はちょうど日曜日だったため、みんな集まりやすいこともあったのかもしれませんが、家族全員に会えて幸せでした。明日は午後から天気が崩れるということですが、あの日も同じでした。桜の花びらがひらひらと舞い落ちる中、葬儀が行われて解散した後、家に帰ったお母ちゃんとオヤジは黙って食卓の椅子に座り込み、砂をかむような気持で夕食を済ませたということです。実はボクもこの家に未練がありました。決して豪華とはいえない家ですが、何故か居心地が良いのです。そんなわけで、あちらで通関手続きと住民登録を済ませた後、ご近所の皆様にも挨拶もせず、わが家に戻り、オヤジの布団に潜り込もうとしました。
さぞかしびっくりすると思いきや、オヤジは、「もう来たのか? 早かったなぁ!」といいながら、いつものように布団の中に招き入れてくれました。こうしてボクとオヤジの奇妙な相棒が誕生したというわけです。変わったところと言えば、以前のボクは暑がりで寒がりだったので、布団に潜り込んだ直後は暖かくてとても気持ちよかったのですが、すぐに暑くなり這い出してクールダウンをしてから、また潜り込むという動作を一晩に20回ぐらいは繰り返してきましたが、安眠を妨げるなどといって、文句を言ったことなど一度もありませんでした。でも、ふと気がつくと、今度は、体温がないせいか朝まで布団に入っていても、まったく違和感がありません。それではということで、オヤジの体の中に入り込むことにしたわけです。以来13年間、ほんの一瞬だけ自分の部屋を見回るだけで、後はオヤジと一体になって、毎日楽しく過ごしています。お母ちゃんもリンゴを備えてくれますし、テレビにラブラドールレドリバーが映し出されると"あ !ムーちゃんが出てる"などと言ってオヤジを呼びに来ます。
この家に来てから、通算するともう23年もたつというのに、特に変わったこともなく、時間がゆったりと流れているようで、とても満足しています。お互いに我慢しながらではこうも長い時間一緒いられるわけがありません。そうなんです。この家には適当な刺激があるのです。オヤジのところに持ち込まれる難問を解決するために、ボクも及ばずながら協力するというスタイルがなんとも言えないのです。ボクたちの仲間は、人の役に立ち褒められるのがことのほか嬉しく感じられる生き物なのです。ボクの役目はオヤジが欲しがっている情報を収集してくることです。つまり、インターネットでは検索しにくい、極めてレアな情報を入手するのが得意なので、この能力を生かせるのが何より好きなのです。皆さんは、自分のことを後回しにして、他人の世話をやくのはごめんだ、などと思っていませんか。決して無理にとは言いませんが、他人のためにひと肌脱いでみませんか。その時の気持ちは、人間の皆様が命より大切にしている預金通帳の数字が増えた時より心が満たされ、とても豊かな気持ちになると思います。ボクはこのスタイルが大好きなのです。