登米市の桜
仙台から車で約1時間の登米市は、宮城県の北部、岩手県と接する県境にあり、西隣の栗原市との境にマガンやオオハクチョウの飛来地として有名な伊豆沼を抱えている。その南東部にある長沼は県内最大の飛来地だ。2月ともなれば鳥たちはシベリアを目指して飛び立ち始め、3月中旬には北帰行を完了。淋しくなった沼にやがて訪れるのは、桜の春。あたたかな日差しの下で、ゆっくりと花びらをほどき始める。田おこしして黒々と光る田畑を見ながら、ゆるやかにアップダウンする道を走ると、かがやく長沼の湖面に沿って桜並木が見えてくる。その向こうには、薄青色の空にくっきりと浮かぶ白雪残る栗駒山。多彩な色が重なる、絵のように美しい一大パノラマだ。長沼には、長沼フートピア公園があり、春は桜の公園といった風情を見せる。
オランダ風車が風に回る丘の上に立てば、あちらこちらを彩る桜模様が眺められる。長大なローラー滑り台からキャンプ場までともかく広く、人々はゆったりと思い思いの花の季節を楽しんでいる。キャンプ場ではテントサイトから桜を満喫する人々の姿も。一帯の桜はソメイヨシノが多いが、シダレザクラやヤマザクラなども合わせて900本以上。公園の真ん中あたりには、かやぶき屋根の古民家を改築した「ふるさと館」もあり、桜と古民家の心和む風景にも出会える。長沼ポートピア公園からさらに東南方向に車を走らせた先にも桜の名所が多い。佐沼城跡の鹿ヶ城公園や、登米町の家屋敷通りのシダレザクラなど、往時をしのびながら愛でる桜も風情がある。また、最近人気が高まっているみなみかた千本桜も登米市だ。はるかに続く田園風景の中を通る道路が、春ともなれば桜のトンネルと化す。
その距離はなんと6㎞。蛇行しながら続く桜並木は、コーナーにさしかかるたびにもう終わりかと思うが、さらに先に延びていく。その連続で、思わず拍手を送りたくなるほどの素晴らしさだ。頭上に桜が覆いかぶさるように咲く中をドライブするのだから、贅沢なことこの上ない。車を降りて足元に目をやると、田園のあぜに咲く菜の花も可憐で、宮城の春らしい優しさがそこはかとなく感じられる。心はずむひとときだ。さらに南下すると、平筒沼ふれあい公園が現れる。大きな沼の周囲を約800本の桜がぐるりとめぐり、その背後に広がる緑の森とともに美しい色調を見せる。沼の真ん中あたりに全長188mの浮桟橋があり、ぐるりと360度の桜景色を堪能できる。丸太のベンチに座れば、湖面すれすれに飛ぶツバメの姿に春の喜びが感じられる。また、公園内の遊歩道からの平筒沼youyou館への坂を登れば、見渡す春の眺望も胸がすくような気持ちよさだ。