飽くなき戦い(1)
ソニーの創業者である故森田昭夫氏は、「モノを売ることは造る事より100倍も難しい」と言っていました。今の販売戦略を見ると、その言葉の意味がより実感できるような気がします。多くの業界、分野で成熟化が進みライバル他社との技術的差別化が図りづらい中、自社の商品・サービスを手に取ってもらうために、「行動経済学」に基づいたアプローチ合戦が繰り広げられています。行動経済学に基づき、経済的な報酬や罰則といった手段を用いずに、人々の意思決定をデザインし、自発的な行動を促す手法は「ナッジ」というそうです。以降、ビジネスやマーケティングにおいて実際に用いられている行動経済学の例について触れてみたいと思います。まず始めは、「先着〇〇名様限定、〇日まで半額セール(ブロスペクト理論)」です。この理論は、「損失回避性」とも言われ、人は損に対して過大に評価する傾向があり、実際の損得と心理的な損得が一致しない場合があることを指します。人は得する可能性があるときはそれを得られるようにし、損をする恐れがあるとそれを避けるようとする、という理論です。
上気の例では、限定条件を外してしまうと、買えなくなったり高くなると「損」をした、と感じがちです。この損を避けるために、必要性は薄くても決断を迫られ、とりあえず買ってしまいがちです。ユーザーが「この機会を逃したら損をしてしまう。だから今のタイミングで購入をしよう」と思うようなキャッチフレーズ・文言がプロスペクト理論の活用になります。注意点としては、実際に限定ではなかったり、値引き前価格での販売実績がない場合は、景品表示法違反に問われる可能性があります。また、景品表示法違反に問われるかどうかは別としても、毎週こうしたキャンペーンを継続していたりするのを見かけると、お母ちゃんはにんまり笑って自分を褒めています。ただし、税金の督促状などのように期限までに払わないと、「△△円の延滞金がかかります」というのは、そううまくはいかないのでご注意ください。つまり、販売促進はこの裏の心理を巧みに活用しているということでしょうことでしょうかね。しかし、これまで冷静に判断してきたかどうかの評価は、昔と比べて、家の中が手狭になったと感じるかどうかで解るはずです。
次は、「クーポン・無料お試し期間(サンクコスト効果)」です。これは、お得感を演出する来店時に配られる割引クーポンや無料お試し期間といった施策で、行動科学の「サンクコスト効果」を活用しています。サンクコスト効果とは費やして既に取り戻せない金銭・時間・労力を「サンクコスト」と言い、それを取り戻そうとする心理効果です。例えば、パチンコで負けたときに、「取り返すまでは帰れない!」 と、いったように止められない心理は、典型的なサンクコストです。割引クーポンは、せっかくもらったのだから使わないと損、という心理、無料お試し期間は申し込みの手間がサンクコストになります。無料お試し期間の場合、無料期間内にその商品やサービスを気に入ってもらい、無料期間終了後に正規の価格でそれを購入してもらう、という狙いもあります。サンクコストのそのほかの例としては、「入会金、年会費制度:せっかく入会金(年会費)を払ったのだから元を取らないと、という心理(入会金、年会費というサンクコスト)。〇〇円以上購入での特典:もうすぐ〇〇円だから、余計なものを購入しても得点を得たい、という心理(払った金銭+特典というサンクコスト)。 ~続きは次回にします~