喜傳山 秀林寺(1) (青葉区北山)
次に向かったのは、北山の山麓にある喜傳山秀林寺です。山門から迫力満点の仁王様に「おお~」っと圧倒されますが、お目当てはお寺の中にいらっしゃいます。それはインド生まれでありながら、中国から日本に伝わるにつれて様々な神様と習合してきた大黒天。インドでは破壊の神として名を馳せたシヴァ神が、中国で大黒天となり、この日本では縁結びで有名なオオクニヌシと習合しました。「大黒さま」として親しまれるお姿は右手に小槌を持ち、左の肩に大きな袋を担いで、米俵の上に座っているふくよかなイメージを持つことが多いでしょう。ですが、ここの大黒さまは違います。黒光りするお姿は今にも動き出しそうで、思わず声を上げそうになるほどカッコいいのです。
まさにラスボスのムード。「すごい迫力だ」と声を洩らすと、計良弘信住職は「そうでしょう?」と静かに笑いました。ここ秀林寺は、1927年(寛永4年)から過去帳の記載がはじまっているほど長い歴史を持つ寺院で、本堂に鎮座する大黒天は最初に比叡山に伝わった「三面六臂出世大黒天」といわれる形。また、その胎内には開山以来400年余り祀られてきた大黒天が納められているといいます。ちなみに「三面六臂」とは、3つの顔に6本の腕を持つという意味。この大黒天のルーツであるシヴァ神が、破壊神となった時の異名「マハーカーラ」の特徴そのものといえます。そのためでしょうか。
右手には小槌ではなく、破壊と創造を意味する破魔の剣が握られています。まさに悪しき存在を叩き切ってくれる力強さを感じました。そしてもちろん左の肩には大きな袋を担がれていて、そこから人間に必要な宝物、つまり仏教の経典によるところの七宝「寿命」「人望」「清麗」「大量」「威光」「裕福」「愛嬌」を出して、ありがたや。ここ数年、新型コロナウィルスの蔓延や戦争など心がざわつく世が続いています。しかしこれを、悪しきを断つ破壊の時代とするならば、破壊の一面を持ちながらも、一方で限りない愛を注いでくれる大黒天ほど頼もしい神様はいないようにさえ感じるのです。