広瀬川
仙台市のシンボルとして親しまれている広瀬川。山形県との県境近くに端を発し、いくつもの沢や支流と合わさって流れ下っていく。川の始まりまで、仙台市街地から車で1時間とかからない。窓を開けると、せせらぎの音が耳にやさしい。上流域には、釣り場や渓流沿いの自然道など、渓谷を流れる川と身近に親しめるスポットがある。さらに下ると川ははるか崖下を流れ、豪壮華麗な流れとなって目と耳を楽しませてくれる。ここから先は、セイコウ大橋、熊ヶ根橋、鳴合橋と、橋上から深山幽谷と表現するにふさわしい風景を目にすることができる。現世を忘れて、しばし大自然の芸術を堪能したい。
広瀬川の特徴の一つは、都市を流れる多くの河川が下流域に市街地があるのに対し、中流域に人々が多く生活し市街地を形成していることだ。大きく蛇行を繰り返し市民の暮らす地域を流れる川は、瀬や渕、断層が見える自然崖と、豊かな表情を見せる。かつて流域に住む子供たちは、泳いだり、大岩から渕めがけて飛び込んだり、水辺で生き物を捕まえたり、川を身近な遊び場としていた。さすがに現代では大勢の子どもが泳ぎに興じる姿を見ることはないが、河畔には遊歩道や公園、緑地が設けられ、散歩やランニングをしたり、ベンチで読書をしたり、思い思いのスタイルで川と親しんでいる。河原を歩いていると、対岸の崖で地層を観察できたり、セコイヤの化石木があったり、古代からの時の流れを間近に感じることができる。川風に吹かれながら、悠久の時に思いを馳せてみたい。
下流域に入ると、川幅を広げてゆったりと流れる広瀬川は、やがて名取川と合流し太平洋に流れ込む。長いこと広瀬橋より下流に橋はなく、千代大橋が架けられたのは、1965年(昭和40年)。それまでは対岸との往来はもっぱら渡し舟が活躍していたという。渡し場は何箇所かあり、流域に暮らす人々にとってなくてはならない存在だったようだ。また、真水と海水が混じり合う流域の水がもたらす恵みも大きい。中流域とはまた違った形で、川と共存してきた人々の暮らしがここにはあった。河口付近の風景を見ていると、海に流れこんだ川の水がやがて蒸発して雨となって大地に降り注ぎ、ふたたび川の流れになって...という自然の循環を思わずにはいられない。人の世に何があろうと、悠然としたその姿は、私たちを静かに励ましてくれているようでもある。