抹茶処 やすらぎ
平家ゆかりの寺、定義如来西芳寺。檀浦の戦いに敗れた平家一族の平貞能が源氏の討伐を逃れ、名を「貞義」と改めてこの地に隠れたことがはじまりといわれている。本堂に平家由来の阿弥陀如来が描かれた宝軸が祀られ、境内には貞能の墓や、幼くして入水した安徳天皇の遺品が眠る塚もある。約800年の歴史があるその土地に五重塔が建てられたのは約30年前。
塔のある庭園には、境内に湧く長名水をつかって抹茶をたてる「抹茶処 やすらぎ」がある。月に一度住職が店にやってきて、抹茶の粉や和菓子、お土産品の品などすべてに「お幸せになられますように」と祈りを込めるというから、なんともありがたい。抹茶と聞くと敷居が高い感じがするが、安らぎに決まった作法はない。
先に会計を済ませ、受付で手渡された折り紙の蝶をテーブルに置いて待っていると、きめ細かな泡立ちの抹茶を運んできてくれる。蝶は、平家の紋がアゲハ蝶だったことに由来している。冬から春にかけては温ミルク抹茶、夏には冷抹茶が登場する。それぞれにハート型のまんじゅうや氷が浮かぶが、これは五重の塔にも見られる猪目という形なのだという。長く人々の信仰を集めてきた土地で、祈りを込めて供養される一杯。ほっと心が安らぐに違いない。