名取川と七北田川を結ぶ「新堀」(1)
伝承館を背にして、名取川に目を向ける。広々とした水面の向こうには、まっすぐに伸びる新堀の流れ。閖上大橋を渡り、対岸にある藤塚地区の避難の丘を目指す。近くに車を止めて丘に上ると、新堀と井土浦、そして、太平洋が見えた。景観生態学を専門とする、東北学院大学の平吹喜彦教授は、貞山運河の中でもここの光景がおすすめだという。「冬の夕方、ガンやカモなどの渡り鳥が井土浦に戻ってくる光景が好きです。原生的な自然を楽しめますよ」。貞山運河倶楽部の上原さんが近くの船だまりを教えてくれた。
船だまりとは、船が風や波を避けて停泊するところ。かつて、閖上と藤塚は渡し船で結ばれていた。「自転車でも積んで、また船で行き来できるようになったら楽しそう」。名取川の向こうには、さっきまでいた伝承館。藤塚側には4月、温泉やレストランなどが整備されるリゾート施設「アクアイグニス仙台」がオープンする。未来の話に盛り上がる人たちの横を、サイクリングを楽しむ人たちが颯爽と通り抜けた。震災前、新浜地区を流れる新堀の両側には、長い年月をかけて地元の人たちが植えた松林が広がっていた。
平吹教授によると「少なくとも400年にわたって海辺の自然と人の暮らしが一体となってきた集落」だという。しかし、風光明媚な松林は、津波で地面近くから折れたり、根元から倒れたりして、櫛の歯状に松が残る無残な姿。最初に目にした時には、自然が壊滅したようにさえ思えた。「ところが、私たちの想像以上に地面のぎりぎりの部分に非常にたくさんの生き物が残ってしまった。震災の2ヵ月後、あちらこちらに緑を見たときには歓声が上がりましたよ。小さい昆虫も、鳥も生きていた。そこで、手ごたえを感じ、足繁く通って観察することにしました」。