感情の複雑さ
遂にスタートした消費増税。私たちの庶民感情からすれば、この時期に消費税が2%上がるのは非常に痛いと感じる人はかなり多いものと思われます。しかし、増税によって長期的に消費が落ち込んだままで推移するとは誰も考えていない。だからこそ、増税の意味があると考えて踏み切ったということなのでしょう。つまり、増税後間もない時期には、生活防衛のためや増税というシメージに対する抵抗などから、消費を控えるという行動をとるが、まもなく受け入れてしまい元の消費行動に戻ってしまう。もちろん、やむを得ない事情で抵抗を続けざるを得ない人もいることでしょうが、全体としては、長期的な景気の落ち込み原因となることはなかった。こうして考えてみると、値上げも増税も、消費者が支払う金額がこれまでより高くなるという意味では変わりはないはずなのに、購入する商品の中身に変わりはないのに、昨日より高いお金を払うことに大きな違和感を持つのではないでしょうか。増税の必要性はよく理解していたとしても、今このタイミングで強制的に加算額を払わせられるという現実に対する抵抗感があります。
これがもし、増税前の価格表示がある商品を、そのままレジに持ち込んだとき、レジ係が、"あなたは金持ちですか? それとも貧乏人ですか? 貧乏人の方は増税分を負担しなくて結構です"と、みんなが並んでいるところで、アナウスしたらどうなるでしょう。中には、大金持ちであることを誰でも知っているのに、敢えて貧乏人ですと虚偽申告をして、増税分をスルーする剛の者もいるかもしれませんが、たいていの人は、自尊心を傷漬けられるのを嫌い、「金持ちです」とは言わないまでも、つい「貧乏人ではありません」と思わず答えてしまい、やせ細った財布から、出たがらずにへばりついている硬貨を泣く泣く取り出すことでしょう。だが、実際にはそんなことはできるはずがありません。そこで考え出されたのが軽減税率ということなのでしょうが、これにもまた大きな欠点があります。この措置の主旨は、カードやスマホ決済を多用している人は、比較的若く消費力の旺盛な人とみなし、そうした人たちに向けた軽減措置ということなのでしょうが、そもそも税金というものは、高いところから低いところに回すことで、経済を活性化させる仕組みです。
しかし、国の台所に火が付きそうな現状では、背に腹は替えられないということでしょう。その趣旨は誰でも理解できますから、増税自体も避けられないことは覚悟しているはずですが、ただでさえ逆進性が高いといわれる消費税の導入に当たり、実施された軽減税率措置は、下手をするとより逆進性を助長するものになることが懸念されます。でも、そんな細かいことを云わずにしばらく様子を見ていれば、消費者よりも企業の方が先にしびれをきらして、在庫一掃セール(実際には別のセール名)で還元してくれるはずです。人の心の中は複雑で、自分から自主的に選択した苦労はものともしないが、他人のせいで苦労を強いられたとなると、何百倍もいた痛みを感じてしまう。というより、自分が苦労しているのは誰かのせいなのだと思いこむことで、自分を慰めるという癖のようなものがあります。恨んだり、場合によっては呪ったりすることで、自分を鼓舞するということはありませんか? しかし、そうした姿勢ではいつまでたっても立ち上がることはできません。たかが2%の増税のために、自分が不幸になったなどとは決して思いたくありませんよね。