音を見せる試み
先日、バイオリニストの高嶋ちさ子さんの実家をスタッフが訪問するという番組が放映されました。わが家では、オヤジもお母ちゃんもちさ子さんのキャラクターが大好きで、彼女が出演する番組は見逃さないようにしています。オヤジは、あまりバラエティ番組を見ないので、はじめに彼女を見たときは、「あの口の悪い変な女はいったい誰なんだ?」とお母ちゃんに聞いていました。お母ちゃんの迷解説によると、高嶋政伸、政宏兄弟のいとこで、有名なバイオリニストだということでした(それもいろいろな話を継ぎ合わせてようやく辿り着いた説明)。オヤジは気位が高いバイオリニストという印象を持っていたので、まさか、あんなに気さくに話す彼女と同一人物とは思わなかったようです。その後、何度か彼女の傍若無人なトークを見ているうちに、二人とも改めてフアンになったというわけです。今回の番組でも、"ちさ子節"は快調で、周りのお笑い芸人顔負けの口の悪さ。思わず、テレビの前に引き寄せられたところで、今度は彼女の実家に案内するというのです。
はたしてどんなことになるのかと思ってみていたら、その前口上がまた面白い。実家には、お父さんとお姉さんが二人で暮らしているということですが、お父さんは、いつも自分の自慢話をしていて、人の迷惑はまったく関係ない、と紹介し、お姉さんのことは、話す事の9割は嘘です、とこき落とす。いくら何でもそんなひどい紹介をしたあとで、本人たちと会うのは他人でも少し気後れするように思うのですが、彼女は一切かまわず。そして、実際に二人と対面した時には、さらにひどいことを平気で言い放つのです。特に、お父さんがさっそく自慢話をすると、そっぽを向いて、そんな話誰も聞きたくないのだからやめてよ! とずけずけ言うのです。するとお父さんもさるもの。全然へこむことなく、延々と話を続けるのです。おまけに、その時はお姉さんも一緒になってお父さんを攻撃するのでした。いやはや驚きました。普通の家庭だったら、血を見なければおさまらないような雰囲気で、ちょっと冷や冷やしました。
しかし、よくよく観察すると、お父さんの教育秘策というか、哲学のようなものを垣間見えるような気がします。ちさ子さんの物おじしない性格は、天性のものというより、こうした家庭環境によって鍛えられたからこそ、エンタテイナーとしての今日があるのではないかと感じました。一見我がままで、妥協を許さない性格でありながら、反面、人を魅了する力があるからこそ、敢えて厳しさを求めて彼女のもとに集まってくる。そう考えれば、あの新人発掘への情熱もそこに応募する新人も真剣勝負そのものであることに納得できます。「妥協することでは飯は食えない」という彼女の言葉は、芸術の世界だけではなく、すべての人のプロ根性に火をつけてくれます。もしかすると、あの独りよがりのお父さんは、敢えてへそ曲がりの自分を演じることで、それを教えているのかもしれません。彼女の「音を見せる」ことへの挑戦も、その辺がルーツなのかもしれません。それにしても、すさまじいほどのドタバタ劇でした。