白石川堤 一目千本桜
春は南から。桜前線がどんどん北上し、宮城県の開花情報が聞こえてくると「ああ、春なんだ「と喜びが体中に満ちてくる。例年、仙台とほぼ同じ時期に桜が開花するのが「白石川堤 一目千本桜」。県内外に知られた桜の名所である。白石川の清流沿い土手に、延々と桜のトンネルをつくり出す光景は、壮大にして壮麗。残雪をいただく蔵王連峰を背景とした一幅の風景は、県民が愛してやまないふるさとの景色の一つである。
大河原金ケ瀬から柴田町船岡土手内にかけて、総延長約8㎞。同様の桜並木の名所に、岩手の北上川畔にある北上展勝地(約2㎞)などがあるが、長さでは群を抜いている。緑の下草も春の息吹き。草を踏みしめつつ桜を見上げてうっとり。長閑というのは春を表す言葉だということを実感することができる。今では約1200本の大木が枝を広げて花を咲かせているが、始まりは大正時代にさかのぼる。
大河原町出身の実業家・高山開治郎が、地元への恩返しにと白石川の堤防工事が完工した大正12年にソメイヨシノ約700本の苗木を寄進し、川沿いに植樹を行った。さらに昭和2年にも約500本を植樹し、現在の一目千本桜の基礎をつくった。その後は、町の人々の手によって大切に植え継がれてきた。市民参加のゴミ拾いや、柴田農林高校生による桜の大敵テングス病の防除など、奉仕の力も大きい。同校出身者が、「そう言えば高校の頃、桜並木で枝の剪定をしたなあ」と懐かしそうに話していた。こうして町の様々な人々の手で、この景色は綿々と守り育てられてきたのだ。