歌枕の国 陸奥・多賀城(その2)
こうした隠れた歴史秘話を、地元のボランティアガイドさんから聞くのも興味深い。多賀城の周囲の桜、また南門跡から政庁跡へとまっすぐ延びる政庁南大路を登ったところにある枝垂れ桜の大木、そして正殿前の石敷広場の古木の桜など、かつての北の都の浪漫を彩る桜は、最近では多賀城桜と呼ばれている。政庁跡から北へ300mほど行くと、多賀城神社があり、ここでも優雅な枝ぶりの桜が、匂うが如き風情を見せる。座って花見をする人たちも、俳句帖を片手にたたずむ人も、しみじみと桜を愉しんでいるようだ。
この一画は平安時代の役所跡で、六月坂という名がついている、この辺りの桜は六月坂桜とも呼ばれているというから、何とも風流。桜の花を眺める人の表現として、花人、花見人、花見客、そして桜人があるようだが、ここでは誰もが桜人になれる、そんな趣のある界隈だ。広大な多賀城跡から南東約1.2㎞。ここには多賀城の付属寺院として創建された寺院の跡があり、多賀城廃寺跡として多賀城跡とともに特別史跡に指定されている。かつては三重塔と金堂を築地塀が取り囲む、壮麗な伽藍の寺院だったといわれる多賀城廃寺。
その金堂跡の高木の桜、振り返れば向かいの多賀城神社の桜も満開である。悠久の時が流れる地の桜を巡れば、多賀城碑に刻まれていた「京を去る千五百里」の1行が思い起こされる。故郷の京を思い、都人たちは桜を植え、それが今に受け継がれてきたのだろうか。桜花浪漫の景色にしばし浸りたい。なお、東北歴史博物館では、人工池を巡る遊歩道を染井吉野とサトザクラが彩っています。そして、東北一の文化交流拠点を目指し、地域の「家」をコンセプトにオープンした多賀城市立図書館も是非立ち寄りたい場所です。